最終更新日 2025年8月6日
みなさん、普段の会話で「上手く話を引き出せない」と感じることはありませんか。
実は、コミュニケーションの質を大きく変えるのは、話すスキルではなく「聞く」スキルなのです。
私は地方新聞社の記者時代から、企業広報、そして現在はフリーランスライターとして、15年以上にわたってインタビューを重ねてきました。その中で最も重要だと感じているのが、実は「相づち」の力です。
今回は、数々の取材経験の中で培った「魔法の相づち」についてお話しさせていただきます。この記事を読んでいただければ、相手の心を開く相づちの本質と、明日から使える具体的なテクニックが見えてくるはずです。
より深く学びたい方は、うまく「聞ける人」と「聞けていない人」の習慣も参考になるでしょう。
目次
相づちがもたらすコミュニケーションの魔力
「相づち」の本質を理解する
相づちは、単なる「はい」「なるほど」という言葉以上の深い意味を持っています。
私が地方新聞社で最初に取材した相手は、80代の元職人さんでした。最初は緊張して固い質問を投げかけていた私に、先輩記者が「まずは相手の言葉に素直に反応することから始めてみて」とアドバイスをくれました。
その言葉を実践してみると、不思議なことが起きました。私の「へぇ、そうだったんですか」という素直な反応に、職人さんの表情が徐々にほぐれていったのです。
相づちには、「あなたの話をしっかり聞いていますよ」という 承認のメッセージ が込められています。それは相手に安心感を与え、より深い話を引き出すきっかけとなるのです。
聞き手である私たちにとっても、相づちには大きなメリットがあります。相手の話のリズムを掴み、重要なポイントを見逃さないようにする。そして何より、信頼関係を築くための重要な土台となるのです。
シーン別に見る相づちの活用例
相づちの効果は、場面によって異なる表情を見せます。
プライベートな会話では、友人の悩み相談に「そう感じるの、わかるよ」と共感を込めた相づちを打つことで、相手の心が軽くなっていくのを感じることがあります。
一方、ビジネスシーンでは、より意図的な相づちの活用が求められます。企業インタビューでよく使うのが要点を確認する相づち
です。
相手:「この製品開発には3年の歳月をかけました」
私 :「3年もの歳月をかけられたんですね」
相手:「はい。実はその間にいくつもの壁にぶつかって...」
このように、数字や重要なキーワードを拾って相づちを打つことで、相手は「この人は真剣に聞いてくれている」と感じ、より詳しい話を展開してくれるようになります。
特に印象的だったのは、地域の高齢者への取材経験です。方言を交えた親しみのある相づちを打つことで、戦前の貴重な体験や、代々伝わる生活の知恵など、普段はなかなか語られない深い話を聞くことができました。
魔法の相づちテクニックを学ぶ
「繰り返し」と「言い換え」の絶妙なバランス
相手の言葉を 繰り返す ことは、最も基本的でありながら効果的な相づちのテクニックです。
【基本の繰り返し】
話し手:「あの頃は毎日が必死でした」
聞き手:「毎日が必死...」
【言い換えの例】
話し手:「一つ一つの工程に時間をかけています」
聞き手:「丁寧な仕事を心がけているんですね」
このように、時には言葉をそのまま受け止め、時には別の表現で言い換えることで、相手の言葉の真意により深く寄り添うことができます。
感情に寄り添うフレーズの使い方
相づちの真髄は、相手の感情に寄り添うことにあります。
私が取材で頻繁に使う「本当にそうなんですね」という言葉には、深い共感の気持ちを込めています。この言葉を使うタイミングは慎重に選び、相手が特に感情を込めて語った場面で使うようにしています。
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▼ 共感の順序 ▼
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1.「なるほど」→ 理解を示す基本の相づち
2.「本当にそうですね」→ より深い共感を示す
3.「〜という感じなんですね」→ 感情を言語化して返す
また、取材先の地域性や年代に応じて、親しみのある言葉を選ぶことも重要です。福岡で取材をする際は、地元の方言で「そいよね〜」と相づちを打つことで、より打ち解けた雰囲気で話を聞くことができました。
インタビュー実例:聞き上手の相づちが生む深いストーリー
地元新聞社時代に学んだ「沈黙」の活かし方
私の記者人生を大きく変えた取材がありました。
戦争体験を取材した際の、93歳のおばあさんとの出会いです。当初、淡々と事実を語っていたおばあさんが、ある場面で急に言葉を詰まらせました。
その時、私は焦って次の質問を投げかけようとしましたが、ふと先輩の「沈黙も大切な相づちになる」という言葉を思い出しました。
そこで、私はただ静かに頷きながら、おばあさんの言葉を待ちました。すると、しばらくの沈黙の後、おばあさんは涙ながらに、今まで誰にも話したことのない戦時中の体験を語り始めてくれたのです。
この経験から、私は 「沈黙の相づち」 の重要性を学びました。時には言葉以上に、静かに待つ姿勢が相手の心を開くきっかけになるのです。
フリーランスとして磨いた聞き出しスキル
現在、企業広報誌や自治体PRの取材では、より戦略的な相づちの組み合わせを心がけています。
例えば、新製品の開発秘話を取材する際は、以下のような流れで相づちを組み立てています:
┌─────────────┐
│ 基本の相づち │ → 「はい」「なるほど」で話の流れをつかむ
└───────┬─────┘
↓
┌─────────────┐
│ 掘り下げ相づち│ → 「具体的には?」「その時の想いは?」
└───────┬─────┘
↓
┌─────────────┐
│ 共感の相づち │ → 「大変だったんですね」「素晴らしいですね」
└─────────────┘
このように段階的に相づちを変化させることで、相手は自然な流れで核心に迫る話をしてくれるようになります。
最近では、オンラインでのビデオ取材も増えてきましたが、画面越しでも効果的な相づちは変わりません。むしろ、対面以上に意識的な相づちが重要になってきています。
まとめ
15年のインタビュー経験を通じて、私は「相づち」がコミュニケーションの質を大きく変えることを実感してきました。
相づちは、決して特別な技術ではありません。むしろ、相手の話に真摯に耳を傾け、心を開いて受け止めようとする姿勢から自然と生まれるものです。
今回ご紹介した技術は、以下の3つのポイントに集約されます:
- 相手の言葉を大切に受け止め、時には繰り返し、時には言い換えてみる
- 感情に寄り添う言葉を選び、適切なタイミングで使う
- 沈黙も相づちの一つとして、相手の言葉を待つ勇気を持つ
明日から、ぜひこれらの「魔法の相づち」を試してみてください。きっと、今までとは違う会話の深さと広がりを感じていただけるはずです。
相手の言葉に耳を傾け、心を開いて受け止める。その小さな一歩から、より豊かなコミュニケーションの世界が広がっていくのです。